2020年2月20日木曜日

適切なウォーキングのスピードは?

前回,健康づくりにおける有酸素性運動(ウォーキング・ジョギングや自転車こぎ)の目安は13045分間,週35回だというお話しをしました.でも,ここからは重要なポイントが抜け落ちています.それは運動の「強度」です.ウォーキングの場合はスピードが上がったり上り坂を歩いたりすれば強度は上がります.エアロバイクの場合は回転スピードやペダルの重さで強度が決まりますが,回転スピードは一定にしてペダルの重さで強度を調整するのが一般的です.運動強度は低すぎると効果が少ないように思えますが,高すぎるとつらいし,第一,長い時間続けることが出来ません.一体全体,どのぐらいの強度で運動を行えばよいのでしょう.

 有酸素性運動による動脈硬化度の改善に成功した過去の研究を精査し,それらをまとめた論文を,前回,ご紹介しました.そこでは,運動の時間だけでなく,強度にも言及しています.そこで引用されている研究では「最大強度の6575%」で運動が行われていました.最大強度とは何かと言いますと「酸素摂取量が最大になる運動強度」ということです.どうでしょう,頭の中が「?」で一杯になりますよね.研究者はトレーニングを開始する前に運動負荷試験を行います.エアロバイクやトレッドミル(ランニングマシン)を使い,準備運動程度の低強度でスタートし,徐々に強度を上げて,その間の酸素摂取量を測定する試験です.その結果に基づいて「最大強度の〇〇%」に該当するウォーキング速度やペダルの重さを決定する訳です.

 こんな情報を提供されても,研究所や病院で試験を受けられる人(特殊な環境にある人)以外は,どうしょうもないですよね.でも,安心して下さい.もっと簡単に「最大強度の〇〇%」を把握する方法があるのです.実は,この簡便法を使っている研究者も沢山います.次回以降,より簡便で現実的な運動強度の設定方法をご紹介します.

【引用文献】 大槻毅, 前田清司.動脈スティフネスと運動強度. 臨床スポーツ医学 28: 1089-1092, 2011

2020年2月12日水曜日

運動は週に何回?


健康・体力を増進し,なおかつ,やり過ぎによる怪我を防ぐためには,強すぎず,弱すぎない様に,また,多すぎず,少なすぎない様に運動することが大切です.「適度な運動」という言葉,よく聞きますよね.でも,適度って,いったいどの程度でしょうか.

もう10年近く前のことですが,臨床スポーツ医学(文光堂)という雑誌で「運動強度とトレーニング効果」という特集が組まれました.私も原稿を執筆することになり,科学論文のデータベースを利用して,有酸素性運動による動脈硬化の予防効果を検証した論文を洗いざらい読み込み,それらの研究ではどんな運動が行われていたのか調べてみました.その結果,有酸素性運動によって動脈硬化度を改善したという論文が10篇みつかりました.

ほとんどの研究では,ウォーキング・ジョギング,または,エアロバイクによる自転車こぎ運動が行われていました.運動時間は13045分間,それを週に35回というのが大多数です.運動の期間は23カ月でしたが,1カ月という研究も2つありました.もちろん個人差はありますが,この程度の運動をすれば,動脈の硬化度,いわゆる血管年齢を改善できると言えます.動脈硬化が進むと,脳卒中や心臓病のリスクが高まりますから,動脈硬化の予防は有酸素性運動の重要な効果だと考えて良いでしょう.

私たちの運動教室では,まずは30分×週3回を目標にウォーキングを行います.慣れてきたら,少しずつ時間と回数を増やしますが,最大でも60分×週5回としています.登山やイベント等で2時間,3時間と歩くのは良いですが,歩けば歩くほど血管が柔らかくなるわけではありませんし,膝や腰の怪我も心配ですから, 60分を超える長さのウォーキングを日常的に行うことは推奨していません.それよりも,余裕のある人はペースを上げたり,筋力づくり運動を併用したりすることをお勧めしています.ペース(運動強度)については次回,筋力づくり運動についてはまたそのうちに,お話したいと思います.

【引用文献】 大槻毅, 前田清司.動脈スティフネスと運動強度. 臨床スポーツ医学 28: 1089-1092, 2011

2020年2月6日木曜日

有酸素性運動の条件

 有酸素性運動とは,必要なエネルギー源(ATP)をつくりだす時に酸素を利用する運動だということを,前回,お話しました.補足しておきますと,同じ種類の運動でも,やり方によっては酸素を多く利用したり,そうでなかったりします.酸素を多く利用するということは,血液をたくさん循環させたり,脂質をたくさん燃焼させたりするわけで,酸素を多く利用するほど,健康増進のメリットは大きいと言えます.

では,どのように運動すると,酸素を多く利用できるのでしょう.有酸素性運動の代表はウォーキングやジョギングですが,これらに共通する特徴を考えると,運動で酸素を多く利用する条件が見えてきます.それは,休まないで連続的に体を動かすこと,お尻や太ももなどの大きな筋肉を使うこと,テンポが一定であることです.ある程度の時間,休まずに続けるためには,そんなにきつくない運動であることも重要です.これらの条件を満たすことで,多くの酸素が利用され,疲れにくい体をつくったり,生活習慣病を予防したりできるのです.

見方を変えると,これらの条件を満たすことができれば良いわけで,ウォーキングやジョギングにこだわる必要はありません.サイクリング,水泳,エアロビック・ダンス(いわゆるエアロビクス)も良いですし,サーキット・トレーニング(自転車こぎ等と筋力トレーニングを交互に行う)も部分的には有酸素性運動だと言えます.基本条件さえ押さえておけば有酸素性運動の効果が得られるわけで,工夫次第でそのバリエーションは無限です.そうは言っても,手軽に実施できて効果も確かという意味ではウォーキング・ジョギングは抜きんでていて,やはり,有酸素性運動の基本はウォーキング・ジョギングなんですけれども.次回は,有酸素性運動の条件について,もう少し詳しく説明します.

ウォーキングに飽きてしまったら?(前篇)

 ウォーキングは健康・体力づくりにとても良い運動だと思います.生活習慣病やメタボリック・シンドロームの予防に効果的ですし,特別な用具・技術は不要で気軽に実施できます.やわらかい日差しを受け,心地よい風を感じたり景色を楽しんだりすれば,心も軽くなりますよね.ウォーキングのイベントを...