2021年1月30日土曜日

ウォーキングに飽きてしまったら?(前篇)

 ウォーキングは健康・体力づくりにとても良い運動だと思います.生活習慣病やメタボリック・シンドロームの予防に効果的ですし,特別な用具・技術は不要で気軽に実施できます.やわらかい日差しを受け,心地よい風を感じたり景色を楽しんだりすれば,心も軽くなりますよね.ウォーキングのイベントを実施する時は,景色の良い場所を通過するようにコースを工夫しています. 

 そうは言っても,「飽きてしまって長続きしない」,「もっと効果的な方法を知りたい」という方もいらっしゃいますよね.今回は,ウォーキングのバリエーションをご紹介したいと思います.まずは「インターバル速歩」です.これは,信州大学の研究グループが考案されたもので,普段の歩行速度でのウォーキング(ゆっくり歩き)と速歩き(さっさか歩き)を3分毎に繰り返す歩き方です.一般的には,「ややきつい」と感じる速さのウォーキングが推奨されていますが,「さっさか歩き」では「(ややきつい)と(きつい)の中間」が推奨されています.3分間という時間限定で一般的なウォーキング以上のスピードを達成することで,生活習慣病の予防効果に加えて,いわゆるウォーキングでは改善しにくい筋力の増大も期待できるとされています.

  私たちの運動教室は,週1回のペースで合計6回(6週間)行うことが多いのですが,34回目は,このインターバル速歩を実施しています.最初の9分間はウォーミングアップとして普段と同じ速さで歩き(心拍数を3分毎に記録する都合で9分間としています),912分を「さっさか歩き」,1215分を「ゆっくり歩き」,1518分を「さっさか歩き」という具合で,3060分間歩きます.普段はペースが上がりにくい人にも,メリハリがついてペースを上げやすいようです.「スマホでラップタイムを取りながら歩くと,漫然と歩くよりもメリハリがあって楽しく歩けました。」という感想を頂いたこともあります.信州大学発,流通経大アレンジのインターバル速歩,ぜひ試してみて下さい.

2021年1月7日木曜日

コラム:日本人の大発見?

 2021年,謹んで新年のお祝いを申し上げます.新型コロナウィルスの感染拡大が続いていますが,皆さん,お元気のことと存じます.長らく更新を怠っていましたが,心機一転,出来る範囲で更新を続けていこうと思います.どうぞよろしくお願いします.今回は,肩のこらない軽い話題です.

 このブログは運動が健康増進に重要であることを前提にしています.令和の時代では言わずもがなですが,でも,ちょっと待って下さい.人類はいつから運動の重要性を認識していたのでしょう.社会のオートメーション化が進んで生活習慣病(昔の成人病)が増え始めたころ? 確かに,ロンドンの2階建てバスの運転手さん(座って運転)と車掌さん(車内を歩き回って切符販売)で心臓病のリスクを比較したMorrisの研究は1953,ハーバード大の卒業生を追跡して身体活動と心臓病との関連性を研究したPaffenbargerの研究は1978です.でも,学術論文と比べるのも何ですが,それらよりも遥か昔,鎌倉時代の初期に,この日本で運動の重要性が指摘されているのです.

 みなさんは鴨長明の方丈記をご存知でしょうか.「ゆく河の流れは絶えずして,しかももとの水にあらず.」で始まるこの随筆は,1212年に作成されたと言われています.全てのものは生まれては滅び,この世は絶えず変化してゆくという無常観をベースにするとされる方丈記には,以下の一節が含まれています.

「いかにいはむや、常に歩き、常に働くは、養性なるべし。なんぞいたづらに休みをらん。人を悩ます罪業なり。いかゞ他の力を借るべき。」

 これを私流に解釈すると「いつも歩いて身体を動かすと健康にいいよ.どうして無駄に休むのさ? 身体を休めると健康を損なってしまうよ.掃除でも洗濯でも,他人に頼らず,自分のことは自分でやろうじゃないの.」といったところでしょう.鴨長明のすごいところは,この時代に歩行の重要性を,そして,家事や身支度に伴う身体活動の重要性を認識していたことです.厚労省がエクササイズガイドで「生活活動(家事,肉体労働,移動のための歩行など)」の定義を示したのが2006年ですから,鴨長明の先見性,恐るべしです.

  鴨長明の子孫であり,高齢化先進国に住む私たちは,世界に先駆けて運動による健康長寿社会を実現したいですね.


【引用・参考文献】

Morris JN, Heady JA, Raffle PA, Roberts CG, Parks JW. Coronary heart-disease and physical activity of work. Lancet 265: 1111-1120, 1953

 Paffenbarger RS, Jr., Wing AL and Hyde RT. Physical activity as an index of heart attack risk in college alumni. American Journal of Epidemiology 108: 161-175, 1978

2020年8月6日木曜日

コラム:熱中症にご用心

この数日,急に暑くなりましたね.体調を崩されている方はいないでしょうか.メディアでもよく話題になりますが,今年はマスクを装着することが多く,例年よりも熱中症に注意が必要です. 

熱中症を予防しながら運動に励むために,どんな工夫があるでしょうか.インターネットで検索すると,高機能のウェア,首や手を冷やすグッズなど,どれも魅力的に映ります.でも,私のお薦めはもっと原始的で「涼しい時間帯に歩く」,「冷たいドリンクで水分補給」の二つです.えっ,最近,手抜きしてないかですって? とんでもありません.これが一番効果的なんです.また,お金も必要ないし,商品に目移りして時間を浪費することもありません. 

気象庁のHPにアクセスしてデータをみてみましょう.流通経大の地元龍ケ崎市を例にすると,19808月の最高気温は平均25.5℃でした.ただ,この年は少し特殊だったようで,1980年代の8月の平均最高気温は概ね2932℃といったところです.さらに2010年代は概ね3033℃と,地球温暖化の影響か30年間で約1℃上昇しています.この気温に強い日差しが加わると,いくら対策しても屋外でのウォーキングは無理ですよね.それに対し最低気温は,1980年代の8月は概ね22℃,2010年代でも2224℃です.暗い時間帯のウォーキングには別の問題がありますが,早朝など,気温が比較的低い時間帯を選んでウォーキングに励んではどうでしょうか. 

もう一つ,少し古いですが,大学野球選手が直腸温センサーを装着して練習したという研究をご紹介します.真夏に水分摂取が禁じられた状態で2時間ほど練習しますと(現在は,この様な研究は研究倫理委員会が許してくれないと思いますが‥‥),直腸温は1.8℃も上昇してしまいます.しかし,スポーツドリンク(1016℃)を自由に飲める状態で練習すると,直腸温の上昇は1.4℃に留まりました.両者の差は0.4℃と些少に感じるかもしれませんが,水を飲まなかった時の直腸温は全員39.0℃を超え,高い選手では39.9℃に達したとされています.直腸温のような身体の中心部分の温度が40℃に達すると運動の継続が不可能になるとされていますから,この0.4℃は大きな意味を持つのです.冷たい飲料で体を中から冷やすと効果的だということですね.水分補給もできますし,飲料の種類によっては汗と一緒に失われるミネラルも補給できますから,積極的な水分摂取をお勧めします.最近は,アイススラリーという氷を細かく砕いたスムージーのような飲料をアスリートの熱中症予防に活用する研究が進んでいて,商品化もされています.ただ,冷やしすぎてお腹の具合が悪くなってもいけません.また,長く続けるには味も大切です.夏のウォーキングを快適に楽しむため,自分にあったドリンクを探してみてはどうでしょうか. 

【引用・参考文献】

 寄本明, 中井誠一, 芳田哲也, 森本武利屋外における暑熱下運動時の飲水行動と体温変動の関係体力科学 44: 357364, 1995

2020年7月29日水曜日

運動する時間がありません!(完結篇)


今回のシリーズは,忙しい中で,いかに効率よく健康の増進を図るかがテーマでした.2つの方法をご紹介しましたが,他にも色々ありますので,次の機会にご紹介しようと思います.

でも,以前もお話ししたかもしれませんが,どんな内容であっても「ともかく身体を動かす」ことはとても大切です.私がお薦めしている3060分間の有酸素性運動は効果が出やすいので,過去から現在まで,多くの研究者が採用しています.でも,最近のスポーツ健康科学は研究レベルが上がってきて,測定の制度が良くなったり,より大規模の研究が実施されたりして,これまで見逃していた小さな運動効果も検出できるようになりました.いずれご紹介しようと思いますが,過去には「運動」とみなされていなかった低強度の身体活動や,もっと言うと,座った状態が長く続かないように30分毎に立ち上がることなどが健康の増進に役立つという研究成果も出てきました.厚労省は「+10(プラステン):今より10分多く体を動かそう」というキャッチフレーズで運動量の増加を促していますが,語感も良いし,的を射たグッド・フレーズだと思います.

まとめますと,ウォーキングは,1)まずは3060分間×週35回を目指す,2)時間のとれない時は,少し強度を高めて運動時間を短縮する,または,何回かに分けて運動を行い1日トータル30分間を目指す,3)それも無理な時は,ともかくできることをやる(以前ご紹介した筋力づくり運動も良いですね),そして,4)どうしようもない日は潔くあきらめる(運動できないことをストレスに感じない),ということでしょうか.無理せず,コツコツ長く運動を続けて頂きたいと思います.

2020年7月16日木曜日

運動する時間がありません!(中篇)


忙しい時は,運動時間を短くするかわりに少しだけペースを上げてみましょう,というのが前回のお話でした.でも,きつい運動はちょっと,という方もいらっしゃるでしょうから,他の方法も考えてみたいと思います.

今回とりあげるのは「運動の分割」です.まとめて30分間は無理でも,朝15分間,夕方15分間の合計30分なら何とかなる,という方もいらっしゃるのではないでしょうか.電車やバスでお勤めの方は,駅やバス停までの行き帰りで速歩きにチャレンジするのも良いですよね.今回は,福井大学 名誉教授 戎利光先生のご研究をご紹介しましょう.運動習慣のない大学生が3つのグループに分かれてジョギングに取り組みました.3グループの走行距離は同じなのですが,決められた距離をAグループは1回で,Bグループは午前と午後の2回に分けて,Cグループは午前,正午,午後の3回に分けて走ります.走るペースは3グループで同じ(最大心拍数の80%),評価項目は持久力と血中コレステロール濃度でした.さて,3グループ間に成果の違いはあったでしょうか.まず,持久力は3グループとも改善し,改善の度合いに差はありませんでした.血中コレステロール濃度は,対象者が大学生ということもありほとんど変化しませんでしたが,唯一,3回に分けてジョギングを行ったCグループのHDL(善玉)コレステロールが増加(改善)していました.なぜCグループだけでコレステロール濃度が改善したかは不明ですが,少なくとも,この研究結果から考えると,運動を分割することで効果が低減することはなさそうです.

余談ですが,今回ご紹介した研究は日本の雑誌に掲載されていますが,タイトル以外は英文で,なんと,米疾病予防管理センター(CDC)と米スポーツ医学会(ACSM)との共同声明「身体活動と公衆衛生:運動のすゝめ」(大槻訳です)に「1810分の短い運動でも,1日に何度か行って1日合計30分以上,毎日のように実施すれば健康体力が増進する」という感じで引用されています.いつか私も,こんな立派な論文を書いてみたいですね.

【引用・参考文献】
戎利光.運動持続距離の分散が心肺持久性および血液脂質に及ぼす影響.体育学研究30: 37-43, 1985
Pate RR et al. Physical activity and public health: a recommendation from the Centers for Disease Control and Prevention and the American College of Sports Medicine. The Journal of the American Medical Association 273: 402-407, 1995

2020年7月9日木曜日

運動する時間がありません!(前篇)


私たちがお薦めするウォーキングは130分間,慣れた方で1回最大60分間,それを週35回です.ただし,30分間といっても,着替え,戸締り,準備運動なども必要ですから,実際には+αの時間も必要です.毎週毎週,都合よく時間をとれるとは限りませんよね.でも,30分未満のウォーキングに意味がないかというと,そうではありません.忙しい時でも効果的に運動する方法はないでしょうか.

30分の運動時間を確保できない場合,考えられる策は二つです.一つ目は,効率よく運動を行うこと,二つ目は時間を分散させることです.まずは「効率のよい運動」から考えてみましょう.以前,こんな研究が行われました.平均年齢60歳弱の女性が約3ヵ月間の有酸素性運動(エアロバイクによる自転車こぎ)にとりくみます.参加者はAB2グループに分かれており,Aグループは平均心拍数が103拍/分と弱めの運動,Bグループは同128拍/分と強めの運動です.ただし,3ヵ月間の総運動量(総エネルギー消費量)がAグループとBグループで同じになるように,1回の運動時間や1週間の実施回数が調整されました.そして,超音波検査で動脈硬化指数が測定され,トレーニング効果が検討されたのです.さて,AグループとBグループ,どちらの成果が大きかったのでしょう.

実は,AグループもBグループもめでたく動脈硬化指数が改善し,改善の程度に差はありませんでした.この研究からは,運動の強度が極端に高かったり低かったりしなければ,運動の総量(強度×時間×週あたりの実施回数)が同じなら得られる効果も同じだと考えられます.忙しくて十分な時間がとれない場合は,時間を短くするかわりに普段より少しペースを上げると良いと思います.ただし,無理は禁物です.30分間が20分間になっても,効果がゼロにはなりません.ほんの少しペースを上げれば良しということにして,できる範囲で気軽にとりくんで下さい.

【引用・参考文献】
Sugawara J, Otsuki T et al. Physical activity duration, intensity, and arterial stiffening in postmenopausal women. American Journal of Hypertension 19: 1032-1036, 2006

2020年7月2日木曜日

ご報告:遥かな夢に向かって


突然ですが,日本人の運動実施率,どの程度だと思いますか? 厚労省の調査では,130分以上の運動を週2回以上し,それを1年以上継続している人は全体(20歳以上)で男性32%および女性26%65歳以上に限っても男性43%および女性37%です.スポーツ庁の調査では,過去1年間に週2回以上運動した人は全体(10歳以上)で男性41%および女性39%でした.これは,決して十分な割合ではありません.事情があって運動したくても出来ない方もいらっしゃることは承知していますが,私は,日本人の運動実施率が100%になることを夢見て,微力ながら教育・研究に励んでいます.

この思いは日本のスポーツ行政を担うスポーツ庁も同じで,昨年末,スポーツ実施率を向上させる事業アイディアを募るコンペが同庁主催で行われました.せっかくなので応募してみましたところ,なんと長官賞(最優秀賞相当)に選出されました.事業内容は,全国の消防署で高齢者対象の運動・防災教室を実施し,健康・体力づくりと救急救命技術の習得により,医療費の抑制と防災力の強化を同時に達成しようというものです.受賞アイディアは,スポーツ庁が事業化を検討することになっています.もし事業化されるなら私も協力したいですし,もしスポーツ庁が事業化しないのなら,私が事業化に取り組み,社会に貢献したいと考えています.

コンペの審査ですが「実現可能性」が審査基準として重要視されていました.そこでプレゼンでは運動教室の実績を大いにアピールしまして,この点が大きく評価されたのではないかと思います.ブログをお読みの方には,私たちの運動教室に参加して下さった方と,運動教室を支援して下さった龍ケ崎市の関係者もいらっしゃるかと思いますので,ここで改めて御礼申し上げます.私たちの運動教室にご参加・ご支援をいただき,ありがとうございます.皆様の健康増進に貢献できますよう,引き続き努力します.

【参考資料】
国民健康・栄養調査(H30年,厚生労働省)
スポーツの実施状況等に関する世論調査(令和元年,スポーツ庁)

ウォーキングに飽きてしまったら?(前篇)

 ウォーキングは健康・体力づくりにとても良い運動だと思います.生活習慣病やメタボリック・シンドロームの予防に効果的ですし,特別な用具・技術は不要で気軽に実施できます.やわらかい日差しを受け,心地よい風を感じたり景色を楽しんだりすれば,心も軽くなりますよね.ウォーキングのイベントを...