健康・体力を増進し,なおかつ,やり過ぎによる怪我を防ぐためには,強すぎず,弱すぎない様に,また,多すぎず,少なすぎない様に運動することが大切です.「適度な運動」という言葉,よく聞きますよね.でも,適度って,いったいどの程度でしょうか.
もう10年近く前のことですが,臨床スポーツ医学(文光堂)という雑誌で「運動強度とトレーニング効果」という特集が組まれました.私も原稿を執筆することになり,科学論文のデータベースを利用して,有酸素性運動による動脈硬化の予防効果を検証した論文を洗いざらい読み込み,それらの研究ではどんな運動が行われていたのか調べてみました.その結果,有酸素性運動によって動脈硬化度を改善したという論文が10篇みつかりました.
ほとんどの研究では,ウォーキング・ジョギング,または,エアロバイクによる自転車こぎ運動が行われていました.運動時間は1回30~45分間,それを週に3~5回というのが大多数です.運動の期間は2~3カ月でしたが,1カ月という研究も2つありました.もちろん個人差はありますが,この程度の運動をすれば,動脈の硬化度,いわゆる血管年齢を改善できると言えます.動脈硬化が進むと,脳卒中や心臓病のリスクが高まりますから,動脈硬化の予防は有酸素性運動の重要な効果だと考えて良いでしょう.
私たちの運動教室では,まずは30分×週3回を目標にウォーキングを行います.慣れてきたら,少しずつ時間と回数を増やしますが,最大でも60分×週5回としています.登山やイベント等で2時間,3時間と歩くのは良いですが,歩けば歩くほど血管が柔らかくなるわけではありませんし,膝や腰の怪我も心配ですから,
60分を超える長さのウォーキングを日常的に行うことは推奨していません.それよりも,余裕のある人はペースを上げたり,筋力づくり運動を併用したりすることをお勧めしています.ペース(運動強度)については次回,筋力づくり運動についてはまたそのうちに,お話したいと思います.
【引用文献】 大槻毅, 前田清司.動脈スティフネスと運動強度. 臨床スポーツ医学 28: 1089-1092, 2011