さて,前回の続きです.龍ケ崎市の「てくてくロード(健康の散歩道)」を歩きながら1km毎に血圧を測定する実験の結果ですが,まず,安静時に比べてウォーキング中に血圧は上昇しました.健康な男女109人(平均67歳)の平均値は,スタート前の椅子に座った状態では最高血圧/最低血圧(mmHg)が124/78でしたが,ウォーキング中は137/79といったところです.しかし,よくデータを観察すると,奇妙なことに気が付きました.まず,同じ値がずっと続くのではなく,140/81,136/79,135/78と,1km地点で2kmおよび3km地点より高い値でした.一方で,客観的(加速度計による計測)にも主観的(らく,ややきつい,きつい,の三択)にも,運動強度は1km地点がそれ以降より低い値でした.原則的には,運動強度と最高血圧は比例関係にありますので,1km地点で血圧が高く運動強度は低いのは「???」なのです.
不思議に思ってよくよく先行研究を調べてみますと,これは「downward drift」といってかなり昔から確認されていた現象で,体温や皮膚血流の上昇が原因だと考えられているようでした.そうは言っても,この現象を風や日光にさらされる屋外の運動で確認したのは私たちが初めてだったので,北欧の雑誌が論文を掲載してくれました(えっへん!). 先行研究では「運動時間が長くなると(10分を超えると)血圧が低下する」と説明されていますが,細かく見ると他にも気になるデータがあって,私たちは「準備運動が不十分だと不必要に血圧が上昇する」と解釈しています.運動時は血圧の上昇が必要な一方で,過度な上昇の反復が将来の疾病リスクを高めることには要注意です.そこで私たちの運動教室では「最初の10分間(約1km)は普段と同じ速度,それ以降は推奨速度(客観的には最大心拍数の70%レベル,主観的には「ややきつい」)」でウォーキングを実践しています.
正直にを申し上げると,この方法の効果を十分に検証したと言えるところまでは研究を進められていません.でも,この方法でウォーキングを6週間行うことで血管年齢などが改善したというデータは得ていますし,無理のない速度で歩きはじめるので運動にとりくみやすいという実践上のメリットもあります.ついつい最初から頑張り過ぎてしまう方,「今日はちょっと気分が乗らないな~」という日,ぜひこの方法を試して下さい.「はじめチョロチョロ,中パッパ」なんて言いますが,美味しいお米と健やかな血管は似ているかもしれませんね?!
【引用・参考文献】
Otsuki T, Ishii N. Association between
blood pressure changes during self-paced outdoor walking and air temperature.
Clinical Physiology and Functional Imaging 37: 155-61, 2017
Otsuki T, Nakamura F, Zempo-Miyaki A.
Nitric oxide and decreases in resistance exercise blood pressure with aerobic
exercise training in older individuals. Frontiers in Physiology 10: 1204, 2019