新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が世間を騒がせていますが,皆様,いかがお過ごしでしょうか.今回は,本編をお休みして,運動と感染症との関係を考えたいと思います.運動習慣のある人は風邪を「ひきにくい」でしょうか「ひきやすい」でしょうか.これは研究者にとっても気になるところで,「運動免疫学」という研究分野があって,この問題を専門に研究する方も沢山いらっしゃいます.早速答えを言いますと「適度に運動をすれば風邪をひきにくくなる」と言えます.視点を変えると「運動をやり過ぎると風邪をひきやすくなる」とも言えます.
唾液には抗体が含まれていて,病原菌やウィルスが口から侵入するのを防いでくれます.唾液の量と成分を調べて,抗体の分泌量が多ければ免疫力が強い(感染しにくい)と言えるわけです.以前に行った実験では,高齢者が週5回の運動を6カ月間行うと,抗体の分泌量が増えました.運動は自転車こぎと筋力づくり体操で,合わせて1回1時間程度です.もう一つ,以前に行った実験ですが,日常的に歩数の多い人と少ない人を比べてみると(平均年齢71歳),歩数の多い人の方が抗体の分泌量が多い傾向にありました.少ない人の歩数は1日4200歩以下,多い人は1日6000~7700歩でした.これらの結果を見ますと,やはり,「運動習慣のある人は風邪をひきにくい」と言って良いと思います.ところが,この研究には続きがあって,歩数が大変多い高齢者(1日7700歩以上,平均1万歩)と歩数が少ない人との間には,はっきりとした差はありませんでした.また,(若いスポーツ選手の実験ですが),強化合宿のようにきつい練習をすると一時的に抗体の分泌量が減るというデータがあったり,他の研究グループからも似たような研究成果が報告されていたりして,運動をやり過ぎると,効果が出なかったり,逆に風邪をひきやすくなったりするようです.
「適度な運動」を定義するのはナカナカ難しいですが,無理をせず,疲れが残らない程度に運動して,良く食べ,良くねることが大切だと思います.専門者会議の言う「換気の悪い密閉空間,多くの人が密集」を避けられる屋外でのウォーキングはお薦めです.
【引用文献】
Otsuki
T, Shimizu K, Iemitsu M, Kono I. Chlorella intake
attenuates reduced salivary SIgA secretion in kendo
training camp participants. Nutrition Journal 11: 103, 2012
Shimizu K, Kimura F, Akimoto T,
Akama T, Otsuki T, et al. Effects of exercise, age and gender on
salivary secretory immunoglobulin A in elderly individuals. Exercise Immunology
Review 13: 55-66, 2007
Shimizu K, Kimura F, Akimoto T,
Akama T, Kuno S, Kono I. Effect of free-living daily physical activity on
salivary secretory IgA in elderly. Medicine and Science in Sports and Exercise
39: 593-598, 2007