2020年3月19日木曜日

心拍数を使ってペースを調整しよう(中編)


 前回,運動の強度に合わせた酸素利用量,つまりはエネルギー生成量の増減に肺,血液,筋肉などが関わっていることをご説明しました.それらの中でも,酸素利用量との関係が強く,運動中の変動を把握し易いのは血液です.ペース調整の方法を具体的に説明する前に,もう少しだけ,身体の仕組みに触れたいと思います.

 肺で酸素を補給した血液が心臓に戻り,酸素を多く含んだ新鮮な血液が心臓から筋肉,脳,内臓などに送り出されることはご存知ですよね.心臓がこれらの器官に送り出す血液の量を「心拍出量(しんはくしゅつりょう)」と言います.平均的な体格の成人男性ですと,安静時の心拍出量は1分間に46 L程度です.運動時には心拍出量が増えて血液循環が活発になり,筋肉に沢山の酸素が届けられます.ここで強調しておきたいのは,酸素の利用量と心拍出量は強い比例関係にあることです.運動の強度が上がると,より多くの酸素が筋肉で必要になりますが,それに比例して心拍出量も上昇し,筋肉に酸素を供給してエネルギーの生成量を増やします.つまり,心拍出量を把握できれば酸素利用量を把握できるという訳です.

 心拍出量が増減する仕組みを考えると,運動中の心拍出量を把握することは難しくありません.心臓は筋肉でできた袋の様な器官です.この袋には,肺から血液を取り込むパイプ(血管)と筋肉などに血液を送り出すパイプが,一本ずつ,ついています.高速道路と同じで血液の流れは一方通行になっていて,逆流の心配はありません.筋肉の働きで袋が縮むと,中に入っていた血液が筋肉などに向かって送り出されます.心臓という袋が縮むことを「心収縮」と言い, 所要時間は約0.3秒です.1回の心収縮で送り出される血液量と,心収縮のテンポによって心拍出量は決まります.1回の心収縮で送り出される血液量は,平均的な体格の男性では,安静時は約70 mL,運動時は最大約90 mLで安静時の3割増しといったところです.一方,心収縮のテンポは心拍数と呼ばれ,安静時は1分間に約70回,運動時は最大約200回と安静時のおよそ3倍増です.3割増と3倍増では比較になりませんよね.つまり,心拍出量の増減を決めているのは心拍数なのです.くどくど細かい説明をしましたが,結局のところ,心拍数を測れば心拍出量を推測でき,酸素利用量の増減を把握できるので,ウォーキングのペースが適切かどうかを判断できるという訳です.次回,いよいよ心拍数の利用したウォーキングの実施方法をご紹介しましょう.

ウォーキングに飽きてしまったら?(前篇)

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