2020年7月16日木曜日

運動する時間がありません!(中篇)


忙しい時は,運動時間を短くするかわりに少しだけペースを上げてみましょう,というのが前回のお話でした.でも,きつい運動はちょっと,という方もいらっしゃるでしょうから,他の方法も考えてみたいと思います.

今回とりあげるのは「運動の分割」です.まとめて30分間は無理でも,朝15分間,夕方15分間の合計30分なら何とかなる,という方もいらっしゃるのではないでしょうか.電車やバスでお勤めの方は,駅やバス停までの行き帰りで速歩きにチャレンジするのも良いですよね.今回は,福井大学 名誉教授 戎利光先生のご研究をご紹介しましょう.運動習慣のない大学生が3つのグループに分かれてジョギングに取り組みました.3グループの走行距離は同じなのですが,決められた距離をAグループは1回で,Bグループは午前と午後の2回に分けて,Cグループは午前,正午,午後の3回に分けて走ります.走るペースは3グループで同じ(最大心拍数の80%),評価項目は持久力と血中コレステロール濃度でした.さて,3グループ間に成果の違いはあったでしょうか.まず,持久力は3グループとも改善し,改善の度合いに差はありませんでした.血中コレステロール濃度は,対象者が大学生ということもありほとんど変化しませんでしたが,唯一,3回に分けてジョギングを行ったCグループのHDL(善玉)コレステロールが増加(改善)していました.なぜCグループだけでコレステロール濃度が改善したかは不明ですが,少なくとも,この研究結果から考えると,運動を分割することで効果が低減することはなさそうです.

余談ですが,今回ご紹介した研究は日本の雑誌に掲載されていますが,タイトル以外は英文で,なんと,米疾病予防管理センター(CDC)と米スポーツ医学会(ACSM)との共同声明「身体活動と公衆衛生:運動のすゝめ」(大槻訳です)に「1810分の短い運動でも,1日に何度か行って1日合計30分以上,毎日のように実施すれば健康体力が増進する」という感じで引用されています.いつか私も,こんな立派な論文を書いてみたいですね.

【引用・参考文献】
戎利光.運動持続距離の分散が心肺持久性および血液脂質に及ぼす影響.体育学研究30: 37-43, 1985
Pate RR et al. Physical activity and public health: a recommendation from the Centers for Disease Control and Prevention and the American College of Sports Medicine. The Journal of the American Medical Association 273: 402-407, 1995

ウォーキングに飽きてしまったら?(前篇)

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